ドローンの技術進歩の過程で、後続可能時間の延長を目指したバッテリーの強化や、飛行安定性や操縦操作の簡略化など枚挙に遑はありませんが、ドローンが宙に浮く為の重要な要素を担うプロペラにも、目立たないまでも小さな努力が見て取れます。
プロペラはマルチコプターを宙に浮かせるための揚力を発生させるパーツで、モーターと一体となって「ローター」を構成しています。マルチコプターをはじめとする回転翼航空機はローターを回転数を調整することで揚力の大きさを調整しており、マルチコプターは回転方向の異なるローターを交互に配置することで、モーターの回転によるカウンタートルクを相殺し回頭を抑え、それぞれ個別に揚力の大きさをコントロールして機体の傾きの大きさを調整し、推力を発生させています。
マルチコプターで採用されているプロペラはブレード枚数が2枚から5枚のものがあり、空撮用途のドローンは2枚、レース用の65型マイクロドローンは2枚から4枚のものが選ばれることが多く、85型、95型と大型化していくと5枚が採用されるなど。カスタマイズ要素としてプロペラのブレード枚数が用意されています。
プロペラの羽の枚数が多ければ良いと言う単純なものではありません。羽の枚数の大小でそれぞれメリットデメリットがあります。ブレードの枚数が2枚だと同じ大きさの揚力を発生させるためにより高い回転数を必要としますが、プロペラの重量も最も軽量化できますので、より最高速を追求する場合に有効です。ブレード枚数を3枚、4枚、5枚と多くしていくと、その分単純に翼の枚数が多くなるので揚力が大きくなりトルクが増大するため、モーターの回転数変化に対する感応が機敏になります。その反面プロペラの重量が増加し、モーターに負荷をかける特徴があるため、発熱による動力喪失のリスクがあります。
初期のマルチコプターのプロペラはボルトナットで固定されていました。締め付け方向が右回りのみのため、左回りは締め付け方向にトルクがかかるので問題ありませんが、右回りはネジが緩む方向にトルクがかかるため、飛行中のプロペラ脱落防止のため、ダブルナットで固定し、離陸前には必ず増し締めの必要があります。現在でも5inchクラスの以上のレーシングドローンやシネリフターではこの方式が採用されたパーツを採用している場合もあります。
モーターのボルトに、ネジ山が切られたプロペラを直接取り付ける方式です。この方式はトルクのかかる方向に合わせてネジ山の切り方が変えられており、トルクがかかると常に締め付け方向に力がかかり、プロペラの脱落を防止します。他の固定方式と比較すると接合部の耐久度が低く、プロペラの交換サイクルは短めです。
現行機種で多く採用されている、クイックリリース方式はスプリングとストッパーを活用してモーターにプロペラを固定する方式で、プロペラの取り外しはワンタッチで行えるものの、飛行中に外れるリスクの最も少ない取り付け方法です。しかし、正しく取り付けが行われないと、飛行中にプロペラが外れてしまうこともありますので、飛行前には取り付け状況の確認は重要です。
Mavicの発売以降、市販ドローンが可搬性を追求して折り畳み機構を持ったドローンが増えてきました。プロペラを取り外さずケースに収納できる様に、収納時はプロペラを折り畳み、飛行時は回転による遠心力でブレードが広がる構造です。離陸前に完璧にブレードを開いておく必要はありません。
ブレードの根本が可動部になっているので、点検の際はシャフトの抜けやブラケットの破損がないかを確認します。
Mavic Pro Platinum以降のDJI製ドローンは、静音化を狙ってブレードの翼端にウイングレットが装備されています。翼端渦を抑制し、抵抗軽減効果と静音効果を期待して以降のモデルではより先鋭的な形状のブレードが採用されてきました。
形状こそ違えど、Mavic 2、Mavic Air 2シリーズなどの空撮機からMatrice 200シリーズ以降の大型産業機でも採用されています。
Mavic 3とDJI Mini 3 Proでは、翼としての機能性を犠牲にしてでも保護機能を重視するとしてブレードの先端にラバーの保護材が取り付けられる様になりました。どうしても鋭利な構造にならざるを得ないプロペラが接触した時のダメージを軽減することを目指している様ですが、効果の程は…
翼端渦を抑制する効果は無くなってしまっているので、Mavic 2やAir 2シリーズと比較すると飛行時の騒音は気になります。
採用事例は少ないですが、ブレードの前縁がギザギザに加工されているプロペラです。
Parrot社製の高所点検作業用ドローンANAFI-Aiに採用されているプロペラブレードで、Mavic 2やMavic Air 2と比較すると控えめなウイングレット加工は共通ですが、ブレード前縁の形状が特徴的です。
このギザギザ加工の効果についてはナショナルジオグラフィックの掲載記事が参考になります。https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/5940/
ザトウクジラの胸びれには特徴的なコブが前縁についており、このコブがエネルギー効率を向上させる効果が有るのではないかと考えられています。実際に、鯨の胸びれの形、ドローンのブレードに似てるような気もしますよね。
実際に、このコブを参考にタービンやファンのブレードを設計している企業もあるようで、より高いエネルギー効率の達成を目指しているとのこと。
水中のクジラは胸ビレにある凹凸のおかげで、かなりの急角度でも難なく潜行することができる。アメリカ、ハーバード大学のグループは、凹凸のない滑らかなヒレと比較した。その結果、迎角(水の流れに対して胸ビレがどの程度傾いているかを表す角度)を最大で40%も大きくすることができ、水中での移動が楽になると判明したという。
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/5940/
なお、高速回転するタービンブレードなどコブは細かくギザギザ加工のような形状になっていますが、特に高効率を追求したセーリングボートの舵にも同様の加工を施した事例があり、低速で航行する舶用の舵には鯨のヒレのような相対対的に大きめのギザギザ加工がされています。
ドローンの飛行時間の延長にはバッテリー性能の向上が真っ先に謳われますが、プロペラの効率化も重要な要素だと考えています。現に、ドローンのプロペラにウイングレットが採用され、合わせてESCを最適化することで、同一容量のバッテリーで約2分ほどの飛行時間延長が実現しています。
ビジネスシーン向けの認定証取得を目指せる「プロフェッショナルコース」と、趣味でドローンを楽しみたい人に向けた「パーソナルコース」の2コースをご用意。国土交通省登録講習団体にも指定されています
(SUSCドローンスクール大阪)。